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国際医療福祉大学大学院乃木坂スクール2010年度前期 福祉用具専門相談員のレベルアップ講座バージョンアップ版スタート!! 「モニタリングシート」で活きたモニタリングを学ぶ
5月17日、国際医療福祉大学大学院と協力して開催される公開講座「乃木坂スクール(全10 回)」がスタートした。これまで4年間にわたって行われてきたこの講座。今回は、2010 年4 月に発表した「モニタリングシート(試行版)」を使った事例検討を行う。毎回異なるテーマをもつ事例について、複数の観点からチェックし、具体的な再提案を発表、その内容について議論していく。実際の担当者に話が聞けるため、机上の論理や理想論ではない「実務」を体験・習得することができる。
 
ふくせん版「モニタリングシート」が“プロのモニタリング”を実現する
会場の様子会場の様子 東畠氏東畠氏が、開発に込めた想いとともに「モニタリングシート」の特徴や使用方法・目的を説明

講義の前に、「モニタリングシート」の内容、福祉用具専門相談員の業務への取り入れ方などについて、東畠弘子氏から説明があった。同氏は、ふくせん理事であり、昨年発表した個別援助計画書については検討委員会の委員長を務め、「モニタリングシート」研究開発プロジェクトでは副委員長として開発にたずさわった。

「開発にあたって、45名の福祉用具専門相談員の方に実際に作成していただきました。皆さんから“これはいいね”とほめていただいたのは、ご利用者・ご家族への聞き取りの『使用中に困ったこと』『使いにくさ』。プロの目では問題なく、適した福祉用具であっても、いざ使ってみると本人や家族にとってはどうだったのか。使い始めて、新たなニーズが生じているかもしれない。今までそれらを明らかにし、記録するツールはなかったのです」(東畠氏)

そのほか特徴的なポイントをあげると、次回予定日の記入は定期的なモニタリングへの意識を高める効果があり、4つの“変化”の項目は、新たなニーズを発見する指標となる。また、“専門相談員による総合確認の結果”は個別援助の継続に大きな意味をもつ。

福祉用具専門相談員は、ケアマネジャーから依頼された福祉用具を提供するだけではなく、利用者と向き合い、そのニーズに対し、具体的な提案ができる専門職である。専門相談員ならではのモニタリングを行うためのツールである「モニタリングシート」が、ケア全体に果たす役割は大きい。

 
現在の生活を維持していくための環境整備 ― 進行性疾患をかかえながらも“安全に自分らしい暮らしをおくりたい”

第1回は、市川洌氏(福祉技術研究所(株)代表)を講師に迎え、パーキンソン病で配慮が必要な事例について検討した。

事例
◆87歳の女性
1LKのマンションで1人暮らし。キーパーソンは、近隣在住の長男、次男、次男の嫁。
6年前にパーキンソン病とC型肝炎を発症した。伝い歩きで屋内の移動が可能だが、服薬の影響などもあって体調の変化は激しい。
要介護5/障害高齢者日常生活自立度判定A2
◆相談内容・主訴
本人:歩行時の転倒の不安があり、ほどんど動けなくなってしまうことも。安全に生活したい。 家族:毎日ヘルパーは入るものの、1人の時間があるので心配。現在の環境を維持しつつ、安全に過ごせるよう環境を整えたい。 ケアマネ:起居動作に不安がでてきたので特殊寝台を希望。本人がシャワー浴を希望しているため、浴室での危険を減らしたい。
◆課題(ニーズ)
運動機能の低下がみられるため、室内での転倒を防止したい。
室内移動・起居動作など、できる限り自力で行いたい。

今回の事例提供者は、潟с}シタコーポレーション所属の土田幸絵氏。今年の1月に提案したのは、ベッド用の手すり、トイレの立ち座り用てすり、室内用歩行器の3点。利用者が自立の意思をしっかり持っていることや、介護者でもある家族が転倒など、移動時の事故を心配していることなどに配慮して立案した「個別援助計画」だ。そして、1か月後、モニタリングが行われた。

 
4つの“変化”が問題点を浮き彫りに
土田氏のモニタリング結果
身体状況 悪化 起居動作が困難になった
生活状況の変化 悪化 離床時間が減少してきた
お気持ちの変化 なし 状態は悪化しているが現在の生活を維持したい
ご家族の状況の変化 なし
使用中に困ったこと なし
使いにくさ 手すりのみでは起居動作が難しい
*本人の身体的負担を減らしたい 

福祉用具ごとのチェックでは、トイレの手すりは、排泄の自立にうまく役立っており、歩行器も特に問題なく移動を助けている。「起居動作が困難に」なっていることが離床時間の減少につながり、「現在の生活を維持したい」という利用者の気持ちの変化に表れている。そこが変更・再提案のポイントとなりそうだ。さらに「“離床時間の減少”について、生活動作の問題はなかったのか、という議論も必要では」(市川氏)との指摘もあり、この点にも注目したい。

発表者3名による事例検討
設定は、モニタリングの担当者。目標達成度をどう判断し、今後の方針をたてるのか。個別援助計画書再提案の内容は?
 
起居動作の要点“特殊寝台”の提案
(株)エイゼット 森谷剛実氏(株)エイゼット 森谷剛実氏
「機能を重視しましたが“超低床”は、身長157cm のこの利用者さんの場合、現在の身体機能からみても、決め手として少し弱かったかもしれませんね」

最初の提案時には、ベッド脇に設置した手すりを使って起き上がる、という動作に問題はなかった。しかし、身体状況の悪化という変化を受け、モニタリングシートの「今後の方針」に背上げ機能付き特殊寝台の導入を明記したのは、潟Gイゼット所属の森谷剛実氏と潟Jクイックスウィング所属の椎畑和男氏。ともに2[モーター]の特殊寝台を選定した。

森谷氏が選んだのは「楽匠」とプレグラーマットレス。他社より5cm低い超低床ベッドの安全性や、動作のしやすさを重視した沈み込みの少なさなどが選定理由だ。しかし、市川氏の「今まで平ベッドでおそらくスプリングマットレスを使っていた利用者にとってプレグラーマットレスは違和感がないだろうか」という指摘に対しては、「選定する際にいくつかのタイプを本人に試してもらうことで確認、対応します」と柔軟な対応を示した。

(株)カクイックス ウィング 椎畑和男氏(右)(株)カクイックス ウィング 椎畑和男氏(右)
「背上げ時の前ずれ防止、腹圧の軽減を1操作で行えることが機種選定の理由のひとつです」

一方、機能性を重視しながらも少し違った観点から「和夢」を選定したのは椎畑氏。「基本情報に、外観を気にされ、気に入ったものでないと受け入れないとあったので、木目調でデザイン性も高い機種を選びました。私が気に入っているシリーズなんです」とは、特に見た目も大事にしたい利用者にとっては、魅力的な説明かもしれない。

また、同氏はモニタリングシートの「専門相談員による総合確認の結果」と再提案の個別援助計画書の利用目標でこの起居動作の援助によって離床機会を確保すると明記し、利用者と家族に対して伝えている。今まで自分たちの生活になかったものを選ばなければならないのだから、どういった理由、目的で提案するのか、期待できる具体的効果などをわかりやすいかたちで提示することは非常に重要である。

 
先を見据えた安全性・快適性の提案

当初、利用者が「まだ必要ない」ということで、手すりの設置等も見送りになっていた浴室。現在は、一部介助を受けながら、浴槽内で洗髪・洗体を行っている。土田氏によると、具体的に援助が必要なのは、浴槽をまたぐ動作、座る動作、洗体(一部)、浴室の出入りの動作である。福祉用具の導入、住宅改修の手を入れていないため、モニタリングのチェック対象には入っていない。

(株)ヤマシタコーポレーション 田丸義紘氏(株)ヤマシタコーポレーション
田丸義紘氏

「プラスアルファの提案として、トイレの出入りには横てすりと縦てすりの設置を。それに伴うドアの開き方向も併せて提案します。過ごしやすい環境の整備は、自立した生活への支援につながります」

利用者がシャワー浴を希望していることから、「専門相談員による総合確認の結果」でシャワーチェアの提案にふれたのは、椎畑氏。浴室入り口が内開き戸であること、てすりが未設置であることなどから「サポートタイプ角形ワンタッチ」を選定した。背・肘掛け付きで安全性を確保できるとともに、介護者は利用者の身体を抱えながら、片手で設置できる。

「疾患の進行を考え、早めに座位入浴を提案します」とは潟с}シタコーポレーション所属の田丸義紘氏だ。「専門相談員による総合確認の結果」では、「安心した生活が出来るよう環境整備を提案したい」とトイレまでの移動やソファの立ち座りとともに入浴動作についてもふれている。個別援助計画書で入浴補助用具としてあげたのは、シャワーベンチ、入浴グリップ、浴槽台の3点。詳しい機種にまではふれなかったが、これらの選定理由として、「浴室内の動作が安定し、安全を確保できる」、それにより、「本人や家族の不安が解消できる」としている。利用者や家族から具体的な要望がでているわけではないが、モニタリングの結果と基本情報から備えのプランニングといえるだろう。

また同氏は、住宅改修も含む環境整備の提案を折り込んだ。洗面所の出入り口は開き戸から引き戸に。浴室の出入り口は開き戸から折れ戸に変更。これは、操作の利便性をはかるとともにスペースの確保にもなる。

事例提供者に聞く実際 
実際のモニタリング結果は?採用された提案は?
 
利用者の希望と好みを熟慮した提案
(株)ヤマシタコーポレーション 土田幸絵氏(株)ヤマシタコーポレーション
土田幸絵氏

「この利用者さんの場合、担当のケアマネジャーが必ず同行してくれるので、ヘルパーやご家族と一緒に、その場で検討したり、確認したりできるのでたすかります。そういうケースだと提案もしやすいですね」

実際に土田氏がモニタリング結果として「今後の方針」「専門相談員による総合確認の結果」に記入した内容は、特殊寝台の導入と浴室内の環境改善。選定したのは「ナチュラルラインベッドCORE」3Mだ。外観と、背上げをした時に安定を保つ足上げ機能が気に入っていだだけたとのこと。その後の確認で、高さ調節機能の操作で利用者が不安に感じているため、ケアマネジャーと相談して対処しているという。マットレスについては、カットサンプルで確認してもらった「アルファプラすくっと」。

浴室については、利用者が”浴槽内でのシャワー浴”を強く希望していることから、「安寿ステンレス浴槽台」を選定。座位の安定と立ち上がりを安全に行えることが選定理由だ。また、”できるだけ自力で”という意欲を援助するため、住宅改修でてすりの設置を提案した。浴槽縁のまたぎ動作を安全に行うことが目的だ。

講師コメント◆モニタリングのタイミングも重要
市川 洌氏市川 洌氏
福祉技術研究所(株)代表。福祉用具の技術・研究の第一人者
「入浴や排泄は、実際の本人動作を見て確認することがなかなかできないので、想像に頼らなければならない部分が多く、難しいものです。今回は、各発表者の内容と実際の提案との間に大きな差はありませんでした。今後も、一つひとつの動作を丁寧に検証して福祉用具の選定をしてください。一般論ではなく、“この利用者の場合にどうか”です」
  モニタリングを行うインターバルについては、6か月、あるいは3か月くらいが一般的でしょうか。しかし、利用者の身体状況などによっては、最初だけでなく後々も、短めのインターバルで行う必要がありますね。今回の事例のように、進行性の疾患の場合は特に重要なポイントとなります。
 この事例は、その疾患による将来の状況も考慮にいれる必要があること、服薬による日内変動も大きいこと、利用者本人の好みがはっきりしていることなど、非常に難しかったと思います。
 さあ、1年後には、この利用者の生活はどうなっているでしょう。身体状況は?気持ちは?予測をどう立てるかは困難ですが…。福祉用具、住宅改修、どんな提案をしましょうか。

編集協力:(株)東京コア

 
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